ようこそ、ソーシャルスタンドへ

取り組んでいることは、「悪い流れを止めること」「緊急性が高い場合は公共機関、専門機関とつなげること」

※このインタビューは、2013年6月7日に掲載したものの再掲になります。

-「自分で自分のことを話す時間が悪い流れを止める」

10代、20代の女の子たちのリアルな声。彼女たちの声はひりひりと切実だが、必ずしも声高には叫ばれない。彼女たちの繕わない声に気づくことが出来る大人は少ない。

虐待、性被害、家出、自傷行為、いじめ、望まない妊娠、出産、中絶など難しい悩みに直面する彼女たちは気を紛らわす為に人の多い街に出るケースが多い。その中で、自分たちの許容範囲を超えた悩みを抱えた彼女たちが外の世界、誰かとの出会いに解決を求めることは珍しくない

しかし、彼女達が日々を過ごす街で、解決のきっかけに出会うことは稀だ。それどころか、彼女達がかすかに期待を寄せる大人や出会いが実は彼女たちを利用し、さらに事態が悪化する場合もある。

「自分のことを肯定出来ずに、心も体もさまよっている」

10代、20代の生きづらさを抱えている女の子の支援をしているNPO法人bondproject代表の橘さんは言う。

 「私は街で女の子を見つけて、話を聴かせてもらうことで、そういった流れを止めることを意識しています。彼女たちは、自分のことを話すことで少しずつ冷静になってくれる。アドバイスを求めている訳ではないんです。自分で自分のことを話するという時間が大事なんです。」

bondprojectでは、メールや電話、時には街(主に渋谷が中心)で街頭アンケートを行ったり、パトロールや面談で出会った女の子の声を聴くことで、彼女たちの話を聴き、「心の声」を丁寧にすくいとっている。

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また、聴くだけではなく、VOICESというフリーペーパーを発行して、彼女たちの声を伝えている。それを読めば、彼女たちの現状や心に抱えて誰にも言えなかった気持ちが聴こえてくる。

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※VOICESは、様々な表現者たちの『ありのままの視点で、リアルな声を伝えたい』という想いから2005年、秋、デザイナー、フォトグラファー、ライターなどが集い、生まれたフリーペーパーです。昨今、社会問題となっている、ニートや引きこもりをはじめ、依存症やリストカット、非行など、生きづらさを抱えた青少年たちの姿が多く取りざたされています。彼らの行動の背景には、自己肯定感の希薄さや、自分の気持ちや考えを表現する方法を見つけられていない状況があると考えます。『そのままの自分で生きていていいんだ』と、思えるようになるためには、自分らしさを表現できる手段を見つける事、ありのままの自分で人と繋がっていく事と・・・。VOICESは紙面を通じて『こんな人もいるんだ』と、読者が知る事によって視野を広げ、多様な生き方がある事を知ってほしいと思っています。

-公共機関、専門機関とつなげる仕組みが必要

bondprojectは悪い流れを止めるだけではなく、「聴いて伝える」だけではどうにもならない現状になってしまっている女の子、特に命の危険がある女の子を保護し、公共機関・専門機関へつなぐ活動もしている。

きっかけは妊娠してしまったものの誰にも相談出来ないという状況の女の子との出会いだった。渋谷で取材中に偶然出会ったその女の子。児童福祉士の友人にアドバイスを貰った上で、すぐに公共機関に相談の連絡を入れた。しかし、公共機関から伝えられたことは「面談の予約をしてください」という言葉だった。

橘さんは感じたと言う。「だからこの子たちは相談に行かないんだ・・・」彼女たちは毎日の生活に必死で、予約して相談に行くということが難しい。「今」をつないで日々生きていく優先順位の中で、予定を確定することが難しいからだ。結局、女の子は公共機関に相談に行くことが出来ず、橘さんが代わりに相談をしにいき、貰ったアドバイスを女の子に渡す形になった。

そのアドバイスのメモをお守りのように持っていた女の子は結果として駆け込み出産をする。女の子から連絡を受けた橘さんは急いで病院に駆け付けた。しかし、家族ではない橘さんは病院側に状況を理解してもらうことに苦労したと言う。

その後、女の子は出産した子どもを乳児院に預けることになる。女の子が子どもを育てることは、難しいのは客観的に見て明らかだった。しかし、病院と女の子とのやりとりに橘さんは違和感を覚えたと言う。

「色々なことがあって困惑している女の子に、今後の話を一人では決めることは難しかったです。事務的な説明に関しても、言葉が理解が出来ない。自分自身でどんな状況かも説明出来ないし、相手に○○しなさいなどを言われると、分からないまま黙ってただサインをしてしまう状況でした。」

「女の子は私と一緒に話を聴きたいと(病院側に)伝えたのですが、病院側は家族ではない方の同席は許可出来なかったんです。結果として、彼女は、赤ちゃんを取り上げられたという意識を持ってしまった。育てられる状況ではなかったけど、それすらも言えなかった。(病院側が)ちゃんとそういう説明をしてくれたら、納得をしたかもしれない。」

「しかし、信頼関係も築けずに手続きのように終わってしまった。それで彼女は街に戻ってしまう・・・それは仕方がないのかもしれない。でも、それがきっかけで彼女たちの言葉を聴いた、彼女たちの立場に立った大人が必要だと思うようになりました」

彼女たちの目線でやり取りをしていく中で感じた社会、周囲の大人たちに対する違和感。それを感じたからこそ、“彼女たちの言葉を聴ける、彼女たちの立場に立った大人”が必要だと思うようになったという。

「長期的な支援をすることは無理だと思う。彼女の生活とか人生を背負うことは出来ない。だけど、見守ることは出来る、お手伝いすることが出来る、それをスムーズにするにはどうしたらいいかなと思った際に、応援してくれる方がNPOにしなよとアドバイスをくれました。」

公共機関、専門機関との接続をスムーズにする為に、活動を社会の中で位置付けることが必要だった。bondprojectはこのようにしてNPO法人として活動するようになった。

大切なのは、聴き続けることで「新しいつながりを作ること」

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-「時間がかかるんです。とにかく待つしかない」

取材の過程で私たちの印象の残ったエピソードがある。ある女の子が、橘さんが信頼している修道院のシスターと会った後に「また行きたいな」と話をしてくれたという話だった。

女の子は、虐待を受けていて、自殺願望がある子だった。メールや電話で“今更助けてとか言えない”“今の環境が変化することが怖い、何かを失うことが怖い”“今受けている虐待の方がどんな気持ちになるのかなどが分かるからそっちの方がいい”ということを聴いた。話を聴く中で、新しい出会いが必要だと感じた橘さんは、信頼している修道院に一緒に行くことにする。

修道院にて、食卓を皆で囲んで笑いながら食べるということは、家族でご飯を食べたことがない彼女には初めての経験だった。その経験は、女の子に「またこの場所に来たい」という気持ちをもたらした。

「(女の子が)こんな人たちもいるんだ。また行けるんじゃないかと言ってくれたんです。大事なことは、そういうやりとり、経験の積み重ね なんですね。時間がかかるんです。私が出来てもその子には出来ない。そこをどんどん埋めていくしかない。埋める為にはどうすればいいか。同じ時間を過ごすしかない。進んだなと思ったらまた戻る。」

ある日、女の子はもう一度修道院に行きたいという気持ちを橘さんに伝えた。

 -「いい場所にいるということ、そういう出会いを増やしていくことで、可能性を感じる」

ただ、同時に彼女は橘さんと約束はしたくないと言った。約束をすることで、もし守れなかった場合には橘さんを裏切ることになるからというのがその理由だった。それまで自分が生きているかもわからないという連絡もあった。

女の子が修道院に行きたいと言った日の当日、橘さんが待ち合わせ場所に行ってみると、そこには先に到着していた彼女がいた。

「私が好きなシスター、信頼してくれている大人に会おうと思ったことがすごいこと。周りに信頼出来る方がいない。そして、帰り際にまた行きたいなと言ってくれた。あの子が関係性を作っていけば、いい場所にいるということ、そういう出会いを増やしていくことで、可能性を感じる。そういうのはすごく嬉しい」

計画を立ててもその通りにはならない、待ちながら積み重ねていくしかない、前進させるきっかけは聴き続けることでしか生まれない。

大事にしていること:「その子のことが知りたくて仕方がない」という気持ち、マニュアルを作らないこと

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-知りたいと思って接する大人との出会い

bondprojectの活動を始める前から、橘さんはルポライターとして10代、20代の女性の声を聴き、伝えるというルポライターとしての活動をしていた。bondprojectの現在にも共通する、橘さんの「聴く」「伝える」の活動の原点は何か。

それはある雑誌の記者が橘さんを取材したことにあった。当時、親と学校の先生くらいしか大人と出会うきっかけがなかった中で、取材をされることを通じて、「この人は私のことを知りたいと思って聴いているんだ」ということを実感することが出来た。

「知りたい」「話を聴きたい」と思って取材をしている記者の方と話をしているうちに、自分がこんなことを思っているんだと感じられた。その出会いがbondprojectの原点であり、大事にしていることにつながっている。

-その子のことが知りたくて仕方がない

bondprojectの活動を知っている人たちは、活動を知れば知る程、“辛いでしょ”、“大変でしょ”とスタッフに声を掛けることが多い。それは、女の子たちが直面している状況が辛いケースが多いからだ。しかし、橘さんはそのような声に対して、そんなことは全くないと感じている。

「私たちにとっては本当に一緒に頑張ろうと思える子たちとの出会いなんです。私たちにとっては、“聴かせて”ではなくて、“聴きたい”なんです」

 -経験しているから聴けるという訳ではない

話を聴くスタッフの方はどんな方なのだろうか。勿論、話を聴きたいという気持ちを持っていることが大前提なのは間違いないが、それ以外にも必要なことはあるのだろうか?

bondprojectには、女の子から手伝いたいという申し出は多く、特に、困っている女の子の話を聴くことでお手伝いしたいという声も多い。ただ、bondprojectが大事にしていることがあるので、誰もが話を聴くスタッフになれる訳ではない。

「経験しているから聴けるという訳ではないんです。分からなくても全然よくて、想像出来て感じられるかが重要だと思います。また、その時悲しんだり、苦しんだり、せつなくなるという自分の気持ちも処理出来なければいけないんです。その子の話を聴いて自分の辛かった気持ちが重なってしまってはいけないと思います。話を聴いて落ち込んでしまったり、死にたい気持ちが移ってしまったりしたら全く支援にはならない、支援者としての立ち位置には立てないということなんです。」

bondprojectのスタッフとして女の子たちと向き合う際、当事者と同じような経験をしているかどうかは重要ではない。“想像出来て感じられること”“でもその気持ちを処理出来ること”の支援者として2つのセンスを持っていることを大事にしている。

また、bondprojectでは話を聴く際には、基本的に1対1で会わないようにしている。(必ず2人1組で話を聴くことにしている。)それも、支援者としての立ち位置を維持する為の一つの工夫である。

 -マニュアルは作らない。

支援者として一線を引くことは大切なこと。ただ、橘さんは、思いがあるからこそ出来ることがたくさんあることも知っている。

「頭の中では、理屈では、こうしてはいけないというのは分かっていても、気持ちが動くということは大事にしたい。だからマニュアルも作らない。その子の言葉で伝えてくれている女の子の気持ちも大事にして欲しいし、スタッフの子も気持ちを大事にして欲しい。」

bondprojectが目指すことは、スタッフがそれぞれの思いを大切にしながら、その子の物語をスタッフが物語れるくらい聴きこむことである。マニュアルでない対応だからこそ、bondprojectには連絡が途絶えることがないのだろう。

今後の展望:ゲストハウスを作りたい
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-声を聴ける大人が増えたら嬉しい

今まで活動のきっかけ、bondprojectの原点、話を聴く際に大切にしていることをお伺いしてきた。橘さんは、NPOとして、走り抜けてきた今までの活動に手ごたえを感じている。

女の子からの相談は増えており、今まで行政が出来ていなかった公共の部分を担っている実感が湧いてきたという。bondprojectが女の子たちの話を会いに行って聴き、行政や専門機関が 女の子たちが困っていることを実際にサポートするという切り分けが明確になってきているという。

今後は、更に、多くの女の子の話を聴く為に必要なことは、積極的にやっていくつもりだ。

「(話を聴く以外の)ボランティアはどんな子でも受け入れたいと思います。もうちょっとパトロールとかも充実させて、声を聴ける大人が増えていけばいいと思っている。そういう意味では、街頭アンケート、パトロールが全国で出来るようになったらいいなと思う。VOICESを配布してくれるような人だったり も増えて欲しい」

 -相談出来ない子たちがいるという視点から出会いを求めて話しやすい環境を作りたい

そんな中で、 その先についても見えてきたものがある という。具体的には、今の活動の延長として、ゲストハウスもやりたいということだ。

「(行政や専門機関に)相談出来ない子がいるという視点から、自分たちで出会いを求めて話をしやすい環境を作っていきたい。私の中では、街の中にそういった場を作ることが必要なのではと考えています。行ける、動きやすい、出会いやすい移動型相談カフェもありかと考えています。一時的にはシェルターにもなるし、私たちが信頼出来る社会福祉士の方などにも参加してもらえれば、子ども達のことがよく分かっている方なので、すごく彼女たちにとってラッキーなのではないかと。でも、その日は平気でも1週間面倒は見れない。女の子たちは行政に話を繋ぐ間も行き場所がないんですよ。私たちがゲストハウスを持てれば、どんな子でも(未成年でも)泊めることが出来る場所も同時に作れたらいいなと思うことが大きな夢ですね」

行政や専門機関で女の子を支援する組織はたくさんある。しかし、“行政や専門機関に会いに行くことが出来ない女の子たちがいるということ”は知られていない。

bondprojectには“今死にたくて夜も過ごせない女の子”“精神的に不調を感じている女の子”“自殺願望がある女の子”様々な女の子からメールや電話で相談が来る。彼女たちの多くは、相談に行くことが出来ない女の子だ。

移動式カフェ・ゲストハウスを持つことで、相談に行くことが出来ない女の子が専門機関・公共機関の支援を受けられる可能性が生まれる。

-関わっている私たちが暗かったりしてたら 声なんか届かない

最後に取材を通じて、一番、印象に残った言葉を紹介したい。

「スタッフには、楽しくやってもらいたいんです。関わっている私たちが暗かったりしてたら声なんか届かないと思います。たまに落ち込むこともそれはあります。でも、会えば元気になります。その子の話を聴くんだから」

杓子定規な支援になってしまいがちな行政が出来ないこと、女の子の話を聴き彼女たちが新しい社会との関係を築くことを後押しすること。閉塞的な社会に必要な公共を担う存在としてbondprojectは今日も活動を続ける。

 

インタビュイー

名前 :橘ジュン ( たちばなじゅん )さん
職業 :bondproject代表
経歴 :『VOICES MAGAGINE』編集長。1971年、千葉県生まれ。10代の終わり、レディス・チームのリーダーとして取材を受けたことをきっかけに、ビデオ・レポーターやルポ執筆の活動を始める。2006年に街頭から声を伝えるフリーペーパ『VOICES』を創刊。これまで少女たちを中心に3000人以上の声を聞き、伝えつづけてきた。メールやウェブサイトにも少女たちからの声・相談が多数寄せられている。2009年、NPO法人bond-PROJECTを設立。「聴く・伝える・繋げる」の活動をさらに広げている。

bondproject ホームページはこちら⇒http://bondproject.jp/

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