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平和が困る国。スーダン・南スーダンの特殊な構造を知る

2016年12月3日(土)に、ソーシャルスタンドでは、JAZZトークライブ「スーダンを知る、スーダンを学ぶ」@喫茶茶会記(四谷三丁目):12/3(土)19:00~を開催した。ゲストに東京外大特任助教のアブディンさん、東京外大教授の伊勢崎賢治さんをお呼びし、トークセッションとJAZZライブの織り交ぜたイベントとなった。

トークでは、アブディンさんの出身地であるスーダンの現状や歴史のこと、また自衛隊がPKO派遣されている南スーダンのことなど様々な話題が挙がった。今回ソーシャルスタンドのレポートでは、イベントの様子を前編・後編の2回に分けてレポートする。後編では、「スーダン・南スーダンに共通する課題、かすかな希望」にスポットを当てる。

トークゲスト:モハメド・オマル・アブディンさん 東京外大特任助教
1978年、スーダンの首都ハルツームに生まれる。
生まれた時から弱視で、12歳の時に視力を失う。
19歳の時、視覚障害者を支援する団体の招きで来日、福井の盲学校で点字や鍼灸を学ぶ。
その後、ふるさとスーダンの平和を築くための学問を学びたいとの痛切な思いから、日本の財団から奨学金を受け、東京外語大大学院で研究者となる。犠牲者200万人、2005年まで20年に及んだスーダンの内戦の歴史を検証しつつ、2011年の南部独立後のスーダンを見守り、祖国平和のために発言を続ける。
ブラインドサッカーの選手としても活躍しており、たまハッサーズのストライカーとして日本選手権で優勝を3回経験している。
著書に「わが盲想」
https://goo.gl/I1pVOK
http://www.poplarbeech.com/wagamoso/007244.html
https://www.youtube.com/watch?v=7tUk2xiODzE
Twitterアカウント  @Abdinkun

 

トークゲスト:伊勢崎賢治さん 東京外国語大学大学院「平和構築・紛争予防講座」担当教授
1957年東京都生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科修士課程修了。東京外国語大学大学院「平和構築・紛争予防講座」担当教授。
国際NGOでスラムの住民運動を組織した後、アフリカで開発援助に携わる。国連PKO上級幹部として東ティモール、シエラレオネの、日本政府特別代表としてアフガニスタンの武装解除を指揮。
著書に『インドスラム・レポート』(明石書店)、『東チモール県知事日記』(藤原書店)、『武装解除』(講談社現代新書)、
『伊勢崎賢治の平和構築ゼミ』(大月書店)、『アフガン戦争を憲法9条と非武装自衛隊で終わらせる』(かもがわ出版)、
『紛争屋の外交論』(NHK出版新書)など。新刊に『「国防軍」 私の懸念』(かもがわ出版、柳澤協二、小池清彦との共著)など
伊勢崎賢治 ジャズ・トランぺッターfacebookページ:https://www.facebook.com/kenji.isezaki.jazz
伊勢崎賢治 ジャズ・トランぺッターページ:http://kenjiisezaki.tumblr.com/

 

南スーダンで起こっていることを理解する為の2つの視点 「和平協定・独立、正規軍への幻想」

南スーダンで起こっていることに対して、2つの視点が提示されました。

一つは、「和平協定を結ぶことが必ずしもいい方向に向かっていることではない」ということ。アブディンさんの話によると、南スーダンでは、大規模な内戦を終結させるために和平協定が結ばれましたが、その内実は、エチオピアとウガンダの大統領のプレッシャーを受けて、南スーダンの大統領が泣きながらサインしたものだそうで、そんな嫌々サインした和平協定は続かないものだと言います。

「国際社会は、和平協定を結ぶことによって国がいい方向に向かっていると考えます。決してそうではないことを分かっているのですが、そう言ってしまいます。それは問題だと思います。また、国が独立したから全て問題が解決されたという話は甘い話だと思います。むしろ、南部でくすぶっていた色々な問題が何も解決されずに独立するという認識が正しいです。」

もう一つは、「南スーダンの正規軍が我々が考える正規軍と違う」ということ。伊勢崎さんの話によると、南スーダンの正規軍は正規軍と称した軍閥の集まりと解釈した方が良いと言います。

「きわめてローカルなはねっ帰りがいて、お金が入ったら、若い人たちを集めて、なぜかその人たちに武器を給与する人がいて、戦闘行為をやって名を挙げて、軍閥になります。そういう人が一杯いた方が権力にはいいんです。大軍閥が中小軍閥をいかに配下に置くかが大事だからです。」

出来たばかりの国で、国家の概念が簡単にできる訳ではなく、上記のような構造にあることを認識することが大事だと言います。

南スーダン・スーダンで共通する課題
「紛争が前提の国、平和が困る」

スーダンを母国として、国際政治を専門としているアブディンさんから見た際に、スーダン・南スーダンで共通することが、「紛争が前提の国」であることです。

そもそも南スーダンがスーダンから独立した際に、問題がありました。もともと、イギリスが植民地として支配していた際に、南北を分断する統治政策をとっており、移動を制限する中で、南北でお互いの敵意を煽るようなコミュニケーションがとられてきました。そのまま南北で別々に独立すればよかったのですが、イギリスはスーダンは独立直前に南スーダンを北部にくっつけた形で独立させようとしました。その当時は、政治の中心となった北部のエリートは、南部との軋轢を避ける為に、連邦制を検討していたようですが、結局実現せず、南部の不満がたまる形で、独立の前に紛争が勃発しました。上記の経緯を考えると、戦争・紛争は、国が独立する前から火種があったということになります。

そのような状況下で、統治の為に、紛争が政治利用されてきたとアブディンさんは話します。
「上にのしあがる為には勇ましいことを言えば人気が出る訳です。
民主主義をやっていても、南(スーダン)に対して、
断固たる形で強くプレッシャーをかける。南スーダンの状況を政治として使ってきました。
なので、(初めから)紛争ありきの紛争前提の国です。紛争がない状態を経験したことがない。
それをサポートする証拠としては、72年に和平協定が結ばれたのですが、
そこから北部の中の争いが頻発しました。なぜかというと
南の問題が解決したら何を言えばいいか分からないからです。
南スーダンの紛争が解決しようとした際に、ダルフール紛争が勃発する訳です。
2011年に南スーダンが独立しても、また違う地域で紛争が勃発する。
(紛争があると)自分たちがよく分かる政治運営が出来るのです
平和が困るのです。」

更に、補足として、平和が困る理由として、国家予算の7割が軍事部門という事実を挙げられました。上記のような特殊な政治状況・予算状況がスーダン・南スーダンが不安定な要因であることが示唆されました。

かすかな希望の話
「国軍がインフラを作ることによって戦う以外のスキル獲得を」

「紛争を前提とした国」という状況下のなかで、平和への道筋を作ることは困難だと思われます。それでも、かすかな希望はあるとアブディンさんは言います。
「私が自衛隊に一つ出来ることとして期待していることは、私設部隊の話です。
日本の自衛隊は、セカンドキャリアのことを考えて、いろいろな重機の免許を取らせるらしいですね
アフリカのミリシアは少年兵から入ります。武器以外の生計の立て方を知らない。
自衛隊が南スーダンで道路作る必要はありません。
しかし、自衛隊が南スーダンの兵士にノウハウを教えることはできます。
国軍がインフラを作るということが出来れば、彼らが重機を運転すれば、
そっちの方が商売になるよなと身をもって分かれば軍にしがみつくよりも、
民間にてインフラを作るという違う選択が出来るのではないでしょうか
強引に武装解除するのではなくて、自身の選択になります。これは、かすかな希望です。」

南スーダンの状況を考えるともう少し安定してからが望ましいという補足がありましたが、国軍がインフラを担うことで、戦う以外の技術を知らない若者がスキルを得て、戦う以外で生活する術を見つけられるようにする。

アフリカの多くの国が、国軍が最大の雇用主になっている構造があり、不安定になりがちな中で、軍以外で生きていける雇用を生み出すきっかけを作ることが出来れば・・・・と議論が展開されていきました。

我々も関係なくはない  無意識・無自覚・無責任に資源確保という点で関わっている

最後に話になったのは、「資源」の話です。アフリカが不安定で、かつ、紛争が多発している背景には、「資源」があると伊勢崎さんは言います。

イベントの中では、例えば、ヨーロッパでは紛争資源が市場に入らないように努力をしており、レアメタルフリーのスマートフォンが販売されるなど、経済が動き、それに応じて法律も作られていっていることに言及がありました。一方で、日本では、紛争資源やレアメタルなどがほとんど知られていない状況です。

スーダン・南スーダンと日本と違う論理で動いている国でも、私たちが資源確保という点で、無意識・無自覚的に関わっており、それも無責任に・・・・というのは非常に印象的でした。

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