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2017.04.24.Mon

暮らし方を見つめ直すと、地域を思う心が生まれる。【リディラバ R-SIC2017 スタディツアーレポート(1/2)】

リディラバ主催のイベント『R-SIC 2017』。中日となる2日目は、イベント会場を抜け出し、社会問題の現場を訪れるスタディツアーが催行された。
食品廃棄や自閉症、人権、防災、動物愛護などの多岐にわたる9つのテーマでツアーが用意され、僕らチャリツモ・メンバーは「地域にある分断をつなぎ直す!コミュニティの再構築のヒント発見ツアー」に参加した。

世田谷区の奥地に“ムーミン谷”があった。

うすいグレーがかった曇り空の下、僕らが訪れたのは東京・世田谷の「大蔵」という地域だ。緑に囲まれ、きれいな小川が流れ、まるで地方の田舎に来たかと錯覚するようなノスタルジックな景色が広がっていた。

今回の目的地は「タガヤセ大蔵」。駅から徒歩25分、築30年の2階建てのアパートだ。一階は、きれいにリノベーションされ、デイサービスセンターとして要介護者のみならず、地域の人たちが集う“場”になっている。一方で二階は空き部屋をリノベーションし、子ども達に創作アートを教えるアトリエだ。

色々なイベントや仕掛け作りが功を奏し、子供から高齢者まで、地域の人々が集まるようになった「タガヤセ大蔵」は、「空き家」「耕作放棄地」「高齢化」「認知症」「孤独」など、地域が抱える数々の問題解決を助けるコミュニティとしても機能している。

同じような課題の解決に苦心する地域が多いなか、どうして「タガヤセ大蔵」は今のようなコミュニティを築くことができたのだろう。今回のツアーでは「タガヤセ大蔵」の大家であり、仕掛け人でもある安藤勝信さんを案内役に迎え、実際に活動を拝見しつつその背後にあるマインドやストーリーを探り、コミュニティを醸成するヒントに迫った。前置きが長くなったが、早速ツアー開始だ。

「タガヤセ大蔵」の由来は、「人と土、人と人との関係を耕す」という意味を含んでいる。耕すは、英語でカルティベート。カルチャーの語源でもある。

タガヤセ大蔵オーナーの安藤さん。

あと1万円下げれば借り手が見つかりますよ。

安藤さんは、この地で生まれ育った。前職は、百貨店のバイヤーだ。誰よりも早く出社し、深夜まで働きづめの毎日。成果は出るものの、仕事にやりがいを感じられない日々が続いたそうだ。

そんなある日、会社に一本の電話がかかってきた。銀行からだった。「お金を借りているのは、本当ですか?」。祖父がオレオレ詐欺にひっかかりそうになったところを、銀行が確認してくれたのだ。ところが、安藤さんは仕事の都合で祖父のもとに駆けつけられなかった。そのとき、「僕の仕事は誰を幸せにできているんだろうか」と自分の働き方に疑問を抱いたそうだ。

その後は徐々に今のライフスタイルに移行していったという。まず会社を辞め、次に家族が持っていた建物を買い取り、会社を立ち上げた。いざ始めてみると、不動産経営は想像以上に難しかった。「駅から25分・築30年」では、なかなか借り手が見つからかったのだ。賃貸を探す人は大半、「駅から◯分で築◯年以内」という条件で物件検索するので、安藤さんのアパートは検索に引っかからないのだ。

そんな折、「家賃をあと1万円下げれば借り手が見つかりますよ」と不動産屋は助言した。このセリフに、安藤さんは強い危機感を覚えた。このまま家賃を下げ続けるしか道はないのか?そもそも家賃を下げたら本当に借り手が見つかるのか?と。

しかも世田谷区は東京23区で2番目に空き家が多い。同じような空き部屋は区内に数多ある中で、どうすれば生き残っていけるか。さらに彼を悩ませたという。

スペック比較マインドからの脱却

物件とは、時間が経つほど条件は悪くなる。立地は改善することはない。築年数も古くなる一方だ。だから、そこで勝負していてはダメだ。

安藤さんは気付いた。家賃の高低や駅からの距離、築年数などの「スペックにこだわらない人」を呼び込むんだと。マインドの転換を迫られた。

そこで思い切ってみた。従来のように部屋を作ってから借り手を探す、のではなく、先に借り手を見つけて、その人と一緒に部屋を作ることを思いついたのだ。そうすれば、住みたい空間を自分で作れる物件(ハーフビルド)になる。借り手は設計の段階から携わるので、壁紙やドアノブなどの部材にいたるまで、自分好みにカスタマイズできる。

自分で部屋づくりをした住人は、その部屋に愛着を持つ。そして地域での暮らしに親しみを抱いてくれる。アパートの住人同士で誕生日を祝ったり、バーベキューをしたり、アパート内での交流が自然と生まれた。その結果、長く住んでくれる住人が増え、収益も安定化し、一般的なアパートより割高な初期投資も順調に回収できるようになった。

今では、このアパートは 「この土地だからこそできる生活を楽しむ人たち」が集まるコミュニティとなり、同じような価値観を持つ人々の間で話題の物件となっている。

安藤さんは自分の役割について、こう語る。
「大家とは、関係性をデザインし、見守って、育む仕事なんです」と。

イベントの参加者のために「タガヤセ大蔵」の近隣住民の女性が作ってくれたお弁当。安藤さんは、家賃をお金ではなく“彼女が得意なこと(料理、DIYなど)”で納めてもらう新たな試みをしている。

「タガヤセ大蔵」周辺の団地には高齢者が多く、地域の高齢化率は40%にもなる。

高齢化率40%エリアに、オープンなデイサービスをつくる。

1階は高齢者向けのデイサービスが入っている。デイサービスを迎え入れたのは、安藤さんの祖父の介護ががきっかけだ。

それまで高齢者が施設に入ることに疑問を感じなかったと、安藤さんは振り返る。しかし、祖父のケアマネージャーとの会話のなかで、「高齢になっても、自宅で自分らしく暮らすことこそ大切なんです」という話を聞き、“福祉”と“空き家”をかけ合わせた新しいことが出来るのではないかと思ったそうだ。

この構想を実現すべく、入居場所を探していたデイサービス事業者を見つけて、彼らと共に建物の1Fをデイサービスに作り変えた。1Fの3部屋全てをぶち抜き、大きなひとつの空間にした。明るくて温かみのある内装は、介護施設のイメージとはかけ離れた、まるでカフェのような雰囲気だ。

1Fのデイサービス。奥にある“カフェコーナー“や“図書コーナー“はあえて作り込まず一度引き算をして、やりたいという人が来たときに作り上げられるようにした。

利用者のおじいさんが即興で描いてくれた似顔絵

このデイサービスは、利用者だけのものでない。地域住民の交流の場としての役割も果たしているのだ。「タガヤセ大蔵」の周りには、高齢化率40%を超える限界集落のような状態の団地が立ち並んでいる。そうした地域住民のうち、介護を必要としない人たちが“ボランティア”として訪れているのだ。

ボランティアと言ってもさまざま。音楽を演奏しに来るひと、、手工芸を教えに来るひともいる。園芸療法士が野菜づくりを教えたり、皿洗いの手伝いや高齢者の話し相手になったりと、お互いが自分にできることで支え合うのが基本だ。

「近くのマックが潰れて100円でコーヒーを飲める所がなくなった。だからタガヤセ大蔵があって助かっている。他に出かけるところがないからね」。そう言って通う常連もいる。

福祉×リノベーション=?

安藤さんはこのデイサービスについてこう語る。

「タガヤセ大蔵は“介護✕リノベーション”ではなく、“福祉✕リノベーション”です。

“福祉”という言葉を辞書で引くと、最初に出てくる定義は“しあわせ”です。
ここでは介護を必要とする高齢者の周りに、すぐに介護を必要としない人々が集まって互いに助け合っている。介護や子育てという個別のカテゴリーではなく、人の幸せや豊かさを総称して表す“福祉”という言葉がしっくりくるんです。」

要介護になった祖父から引き継いだ畑。今では住人たちとともに収穫や野菜づくりをする、“地域でシェアする畑”だ。近くの保育園の園児も日常的に訪れ、水やりや収穫をする。畑がまた地域のコミュニティハブになっている。

人と人を耕し続けたら、生態系のような循環が生まれた

ハーフビルドのユニークな賃貸物件や、地域に開かれたデイサービス、みんなで耕す畑などの一風変わった仕掛けの数々で、地域の人を巻き込んでいる「タガヤセ大蔵」。最近はコミュニティ内のあちこちで、様々なイベントが自然発生的に生まれるようになった。ここに集まってきた人たちが、それぞれ自分のやりたいことを形にする活動を始めているのだ。

イベント例

・縁側を自分たちで作ろう!というDIYワークショップ
・大蔵で撮影された黒澤映画「七人の侍」のロケ地を周る地域ツーリズム
・認知症に悩む本人や家族が、気軽に悩みを相談し合える「認知症カフェ」
・父親の帰りが遅い家庭の母子が集まり、みんなで食卓を囲む「親子食堂」
・“ペイ・イット・フォーワード(恩送り)”形式の映画の上映会

ファームスタンド。畑作業を担っているおじさんが、一晩でこしらえた。リクエストノートがというものがあり、ノートに作って欲しい野菜を記載することができる。

「どうやって組織化したり、仕組み化したりしているのかと聞かれるんですが、タガヤセ大蔵は、役割型の組織化や構造にこだわらないようにしています。大切なのは枠組みではなく、“誰とつながるか”です。楽しそうな人のまわりには、おもしろい人たちが集まると思うんです」。

安藤さんは、今のタガヤセ大蔵を「生態系のような循環が生まれている気がする」と表現する。人と人との有機的なつながりが、新たなつながりを生む。その好循環が生まれているのだと、最後に締めくくった。

チャリツモメンバーの感想

「どう仕組みを作るかよりも“誰”と作るかということの方が大事なんじゃないかなと思います。楽しそうな人の周りに人が集まる。」と安藤さんは言っていたが、このコミュニティに触れることでそれをリアルに感じることができた。タガヤセ大蔵の人たちはみんな笑顔で生き生きとしていた。

このツアーには、「まちづくり」「コミュニティ」「介護」「空き家リノベーション」というキーワードに興味がある方だけでなく、“新たな人とのつながりを模索している方”や“今の生活にモヤモヤしている方”にもぜひ参加してほしい。このコミュニティに触れることで、キーワードについてのヒントだけでなく、もっと根底にある、“幸せ”とは、“自分らしい生き方”とはということについても考えるきっかけをくれる。

(チャリツモメンバー・ゆっこ)

私は普段から日本の「マイホーム至上主義」に疑問を持っていた。終身雇用も年功賃金も今は昔、不安定で不透明な経済状況が続く現代で、未だに35年のローンを組んで、新築の家を買うことが“あたりまえ”とされる持ち家志向に偏重し、逆に「賃貸=仮の家」という風潮に違和感を感じる。一方で賃貸契約はいつでも引っ越せる気楽さがあると思う反面、2年限定の使い捨てのコミュニティという感覚で住まうことに虚しさを感じてもいる。

タガヤセ大蔵に集まる住人たちは、そんな固定観念から脱却した新しいマインドの持ち主だ。賃貸であっても好みの部屋づくりをして、その地での暮らしに愛着を持っている。だからこそ自然とつながりあって地域が盛り上がる活動をしている。

高度経済成長の残り香に惑わされ、無理をしながら、わかりやすい“ゆたかさ”を追い求める時代から、ひとりひとりが本当に価値のあるくらしとは何なのかを考え、自由で柔軟性のある生き方を模索していく時代へと、社会がシフトしていく胎動を感じた。

(チャリツモメンバー・ふな)

次回はこのツアーを企画したリディラバの武村さん、案内をしてくれたタガヤセ大蔵オーナーの安藤さん、そして参加者のみなさんの声をお届けします。

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