今回ご紹介するのは、ネコキルトアーティストで、『TOMONECO Factory』を主宰する松本智恵さん。
ネコをモチーフにしたキルトを創作する智恵さんは、2013年に東京国際キルト展に初出展し、見事企業賞を受賞したのがきっかけとなり、本格的なネコキルト制作をスタートさせました。

キルト展で受賞した作品「101匹のネコキルト」。子供のころから和裁をやっていた祖母の影響で裁縫が趣味だった智恵さんは、大好きなネコをモチーフにしたキルト作品を趣味で作り続けてきたという。
しかし、そこに至るまでには、大きな挫折と苦労がありました。
智恵さんは、2010年にはご主人の転勤でアメリカのニュージャージーに移住。初めての外国生活で慣れないことや言葉の壁があったもののアメリカの生活は刺激的でした。
ところが、そんなある日、夫から突然に離婚の話が…。50代で初めて味わう大きな悲しみに心も体も憔悴し、精神的にも病んでしまいました。
全て失ったような喪失感で悲しみに打ちひしがれた毎日でした。
早くに結婚し、働きに出た経験のない智恵さん。ましてや頼れる人もいない外国で、どうやって生きていけばいいのか。不安でいっぱいだったと言います。
ベアテ・シロタ・ゴードンさんとの出会い
唯一続けていた英会話のレッスンで、ある日担任のマーガレット先生が怪訝そうに声をかけてきました。
「トモエ様子が変ね。困っているなら素晴らしい友人を紹介するから会いなさい」
藁をもすがる思いでこの友人に会いに行きました。
紹介されたのはベアテ・シロタ・ゴードンさんという女性でした。
実はこのベアテさん、連合国軍総司令部(GHQ)民政局行政部で日本女性の政治運動を研究し、日本国憲法第24条両性の平等を起草し、日本女性の権利獲得に声を上げ続けた方でした。
「トモエ、日本には素晴らしい憲法があるでしょう。愛情がないなら離婚し自立するのですよ」
女性のために生涯を捧げたベアテさんからのこの一言で、「一文無しになってもやっていこう」と奮起することができた智恵さん。
昔から好きだったキルト制作に打ち込むことを決めました。
フレンドシップキルト“TOMONECO”の始まりから1000人達成まで。
その後、初出展で賞をもらって以来様々な場所で展示会を開催していた智恵さん。
あるとき展示場のキルトの前で、何か探しものをしている女性に出会いました。
「死んだ飼い猫がこの中にいるような気がするんです。ああ、この子だわ」
女性は亡くなった飼い猫に似たキルトを見つけ、喜びの涙を流したそうです。
他の展示場でも、お客さんがネコキルトの前で写真を撮ったり、飼い猫に似ているネコを見つけて喜んでいる姿を見て、”ネコのキルトで人と猫を助けることができるかもしれない”と智恵さんは思いました。
そこで始めたのが『TOMONECO friendship Quilt プロジェクト』。
フレンドシップキルトとは、友達同士でパターンを持ち寄り、刺しゅうでサインやメッセージを入れたものをつなぎ合わせた“友情キルト”のこと。本来はお祝いの席などでプレゼントとして仲間で作るものですが、智恵さんは猫を愛する人びとと一緒に一つのキルト作品を作ろうと考えたのです。
また、人の輪をつなげると同時に、猫を助ける活動につなげたいという思いもありました。
そこで行き着いたのが、参加者に猫の顔を作るための“キット”を購入してもらい、その売上を猫の保護活動などを手がける団体などに寄付する仕組みです。
キットはひとつ500円で、中には猫の顔となる布と、目鼻口を作る糸が入っています。
参加者はオリジナルの猫の顔を作り智恵さんへ送り返す。それを智恵さんがつなげて、大きなキルトスプレッドを完成させるというプロジェクトです。
最初はまず100匹を目標に始めたプロジェクトが主婦の仲間の集まりから、学校の学生たちの集まり、イベントに来てくれたの方に作成してもらったりと次第に発展していきました。これはいける!と1000匹を目標としました。
キットの売上が増えるに従い、動物保護団体への寄付も増えました。
寄付はこれまでに総額で164,574円が集まり、『東京キャットガーディアン』、『むさしの地域猫の会』、『横浜マシェリ』、『沖縄ワンニャンの会』、『動物基金』、『動物愛護を考える』、『茨城県民の会Capin』、『高知ニャンとかなるワンの会』、『熊本竜之介動物病院』、『ペット里親の会』といった団体や病院に寄付をしてきました。
人が集まりキルトを作りながら家族や亡くした猫の思い出を話したりと、プロジェクトを通してフレンドシップと会話の輪が拡がっていきました。
そしてプロジェクトを始めて2年が過ぎた2017年の春、ついに1000匹ネコキルトの目標に達成することができたのです。集まったネコたちの1つ1つは、facebookで作者とともに紹介しています。
https://www.facebook.com/tomonecofactory/
ネコキルト展を開催します
思いもよらない人生の展開に立ち直ることさえできないと思っていた頃、アメリカのカウンセラーの先生に言われたことがありました。
「この悲しい体験に感謝をする日が来ますよ」
あの悲しみがなければ、今の智恵さんは存在しません。人生の岐路で助けてくれる人々に会い、猫への愛情とキルトという才能を使って、人生の半ばで一人で立ち上がりました。
1000匹ネコキルト達成記念に、10月23日と24日で川口リリアギャラリーでネコキルト展を行います。「助けようと思って始めたことで、実は自分が助けられた」ーフレンドシップキルトの真価は布と糸でつないだ友情、思い出、猫の命、そしてご自身の人生ーまさにここにあるのではないでしょうか。
TOMONECO.com
http://www.tomoneco.com/
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