「どんな人にもひらかれた、アクセシブルな美術館」をテーマに、2017年10月31日まで表参道のスパイラルガーデンにて開催されていた日本財団DIVERSITY IN THE ARTS 企画展「ミュージアム・オブ・トゥギャザー」。
※現在は終了しておりますが、当日の様子は以下からご覧いただけます。

テーマどおり、障害のある人たちも安心して作品を鑑賞できるように、さまざまな工夫が施された展覧会でした。
その中で私は、「クワイエットアワーを利用してみよう!」と「知的障害、発達障害、精神障害のある人と考えよう!展覧会のたのしみ方」というアクセス・アート・プログラムに参加させていただきました。
元々クワイエットアワーとは、イギリスの商業施設で実施されているそうで、障害のある人の中でも特に視覚や聴覚に過敏さがあり(知覚過敏)、照明や音などが耐えられない人のために、照明を少し暗くしたり、音を小さくする、スタッフから不要なコミュニケーションをとらないなどの配慮がされているそうです。
今回は開場前の2時間(9時~11時)をクワイエットアワーとして、各日定員30名という制限を設けて実施されました。私も実際に参加させていただき、2時間じっくり会場の隅々まで鑑賞することができました。

クワイエットアワーの様子。通常時間であれば行列ができているが、静かな館内。

クワイエットアワーを楽しむ参加者の様子
驚いたのは、11時になり、一般のお客さんが入ってきたときの騒々しさ。普段はこんなにもたくさんの人が入り、賑やかになるのかと、クワイエットアワーとの差にびっくりしました。当日、クワイエットアワーを利用されていた5名の方に、お話を聞くことができたので、以下にまとめてみました。
精神障害のある女性
・人ごみの多さを考えると、もういいやと思ってしまう。
・自分の見る位置が周りに迷惑をかけていないかなど、人の目が気になってしまう。
・周りの会話が気になって作品に集中できない。
・移動してくるのに疲れる(電車、人の多さ)。
・クワイエットアワーは特別感がある。いつもの自分でいられる。
・クワイエットアワーは他の美術館でもやってほしい。
・(作品を見ての感想は)楽しそうに描いてるな、会ってみたいな、どんな所で描いてるのか、自分でもできたんんじゃないか、など。
・(クワイエットアワー以外でも印象的だったことは)壁がダンボールになっている所。描いてみたい創作意欲にかられる。椅子がダンボールになっているのもおもしろい。
・(普段)人ごみは避けている。
・クワイエットアワーはゆっくり人目を気にせず見学できるところが良い。
・一つの作品をじっくり見れる。
・人ごみが苦手。
・(一般の展示では)作品の前で見れない。
・ゆっくり、一つずつじっくり見たい。
・クワイエットアワーは静かに自分のタイミングで見られるので良い。
・香取慎吾さんの作品を見に来たが、他の絵も素晴らしく、感極まった。
・クワイエットアワーを実際に体験してみたかった。
・人があまりいなくて静かに見れた、じっくり見れた。
・明るさはあまりよくわからなかったが、やわらかい照明は良い。
・大きな美術館はストレス。
・人が多いと自分のペースで見れない。
・周りの会話が気になる。
・満員電車のような息苦しさ。
・コンサートには頑張って行くが、帰ってから疲れる。
・美術館以外でもクワイエットアワーがあったらおもしろい。
・(他にクワイエットアワーがあったらいいなと思う所は)電車など公共の交通機関。
・自分自身もアート作品を作っている。
・知覚過敏の人たちにもできることを、皆に考えてほしい。
・(今回の展示で印象的だったのは)子どもが触っても大丈夫な作品があったこと。とても気に入っていた。
・(触ってはいけない作品の上には)ガラスでカバーがしてある配慮もありがたかった。
・触っちゃいけない、入っちゃいけないというものが多いと、付きっきりで見ていないといけないので、なかなか一緒に来ようと思えない。
・映画館や食事をする場所など、じっとしていないといけない、静かにしていないといけないという場所は、周りの目が気になって遠慮しがちになってしまう。
・同じような障害のある人たちがいっぱいいて、皆で楽しめるような場所がもっと増えると良いと思う。
障害の有無にかかわらず、美しいものや素晴らしいものを鑑賞したいというのは誰でもが思うこと。でも、障害のある人にとっては見たい作品があったとしても、美術館へ訪れること自体が困難なんだという現実を知りました。
せめてそのハードルを少しずつでも低くすることができれば、誰でも楽しめる空間を作ることができるのだと思います。今回のクワイエットアワーは、その取り組みの一環として、効果のあるものだと実感しました。
そして15時~17時のプログラム「知的障害、発達障害、精神障害のある人と考えよう!展覧会のたのしみ方」では、障害のある当事者の方、テーマに関心のある文化事業者の方が集まり、普段感じていることや、実施されている取り組みなどを話し合いました。
・(美術館で気になるのは)自分が周りの迷惑になっていないか。
・障害者手帳を提示するとき、受付の人の目が気になる。サービスを受けることに葛藤がある。
・コンサート会場では座席に余裕がある所が良い。
・よく行く美術館は新国立美術館。地下のミュージアムショップが好き。交通の便も良い。
・一緒に行くのは気の合う友達。気を使わなくていい。
・安心できる人(精神障害に理解のある人)と見る。共感できる楽しみがある。
・美術館の中で必要なのは休憩できる場所。
・(美術館の人に)プライベートに関する質問をされるのは嫌。
・クワイエットアワーは、緊張も和らぐ。良い思いをすれば、また行きたくなる。
・クワイエットアワーが入口となり、一般の時間帯にも行けるようになるかもしれない。
・普段は美術館には行かない。
・映画館や動物園、ボーリング場には行く。
・長距離の移動がツライ。
・人が多いと見たい作品が見れない。
・「ヘルプカード」が一般の人たちに知られていない。もっとメディア等で取り上げるべき。
・「ヘルプカード」を美術館等でも採用すべき。
※「ヘルプカード」は、障害のある方などが災害時や日常生活の中で困ったときに、周囲に自己の障害への理解や支援を求めるためのものです。ヘルプカードは、特に、聴覚障害者や内部障害者、知的障害者など、一見、障害者とはわからない方が周囲に支援を求める際に有効です。
・ディズニーランドでは「ゲストアシスタンスカード」というものがある。
・(お子さんは)ディズニーランドでは「待てば必ず何かに乗れる」という理解ができてきたが、美術館ではそれがわからない。走り回ってしまうので、体を動かしてもOKな美術館があると良い(科学未来館や現代美術館ではそのような試みがある)。
・特に障害の有無を証明する必要がないため、悪用する人がいるのを見かけて残念な気持ちになった。
・上野動物園では閉園後に開催される「ナイトズー」というイベントがある。人が少ないと思って行ったら、予想以上に多くて驚いた。
・障害のある子どもたちや、福祉施設の方も受け入れている。その際には先生と連携し、必ず下見をする。
・子どもたちには、なぜ触ってはいけないのか、理由をきちんと説明する。
当事者の方々のお話を聞いて気づいたのは、障害のある人が、周りへ迷惑をかけていないかとかなり気を使っているということでした。それに対し、障害のない人の中にはマナーの悪い人もいます。
そこには、健常者は「障害がない=当たり前」「障害がある=当たり前じゃない」という考え方が無意識のうちにあり、自分以外の人への配慮について深く考える機会がないのではないでしょうか。
その考えを変えていくためには、まずは事業者が物理的、意識的に制度などのアクセシビリティを整え、それが徐々に一般の人たちにも浸透していくのが理想ではないかと思います。
その一歩として、今回の「ミュージアム・オブ・トゥギャザー展」はとても画期的で、今後につながっていく取り組みだと感じました。
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