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社会のしわ寄せが露骨になる世界 ~福祉業界が避けられるワケ~

テレビやネットで「合理的配慮」や「介護職の離職」など、盛んに取り上げられている福祉業界の話題。

少子高齢化が進む時代において、これまで以上に福祉が身近になりつつありますが、地味でキツくてハードな仕事である現状が横たわっています。離職率の多い業界ですが、切迫した職場では現代社会特有の問題が浮き彫りになっているようです。一体、どのようなことなのでしょうか。実際、介護や保育を中心に福祉の現場で携わっている・携わっていた関係者のお話を載せてみたいとおもいます。

このコラムは、以下のイベントを基に執筆されています。

チャリツモナイト #6 福祉について考えよう、語ろう

扱いにくさのアラさがし ~必要な人が受け入れられない、シビアな現実~

そもそも福祉には、病院から老人ホームという身近なものはもちろん、児童福祉施設などの専門的なケアを必要とする各種機関まで、様々な施設やサービス・分類がありますが、医療相談員の方(Mさん)によると「身寄りや保証人のない型・また親族に発達障害のある方等はお断り」というケースがあるそうです。

「介護には要介護1・2、障害には等級1~3級とか分類が色々ですが、障害内容や身寄りの有無・経済的な事情でサービスからこぼれてしまう現実がある。また親族に発達障害者のケースは、特性上、非常識なやりとりをされてしまう場合があるので患者を取り扱うのがむずかしい。」

Mさんと障害者の移動支援員を務めるIさんによれば、「精神病院にしろ、老人ホームにしろ、なによりも恐れるのがトラブル。患者があまり暴れると施設も拒否できるんですよ。施設をたらい回しなんて、よくあることです」

一方、保育の世界も同様に児童の受け入れにたいする選考があるといいます。「選考の際は、子どもだけでなく親御さんも判断材料にします。保育園は夜間も増えて一見、充実していますが、やはり面倒くさい方の受け入れは結構、拒みますね。需要が多いので・・・・・・」(oさん)

必要とする人が受け入れられない、シビアな現実を思い知らされます。

自身も、幼児から疑いのあった発達障害の診断を受けるために病院ジプシーを繰り返してきましたが、どんなに症状が深刻であっても国が制定した医療区分上、重度の方をありがたがる状況に打ちのめされたことがあるので、経験としてうなづけます。「重度の方が、国から補助金もでるし、コントロールしやすいですからね。グレーへの対応がいちばんややこしい。」(Mさん)

しかし障害・疾患を抱える人にとっては、度数の線引きなど外見的なものに過ぎず、どんな程度であれ生活面での苦悩の種類は枚挙にいとまがありません。

むしろ一方的な制度区分があるからこそ、福祉機関の対応に窮屈さを感じてしまう患者もいらっしゃるので、「いっそ厳密に分類しない方がいいのでは」と申し出ましたが、現場の皆さんは「グレー患者の支援までいれると膨大になるので、対処できない」と慎重です。

彼らが患者への柔軟な対応に消極的なのは、<人手不足>ももちろん背景にありますが、具体的にどのような事情があるのか。以前,保育職をされていたoさんの例を中心に考えてみたいと思います。

“気合い”で補う現場 ~耐え抜いた人だけ歓迎します~

大学時代に社会福祉を専攻したOさんは、精神病院などで実習を受けましたが、現場の職員がボロボロに疲弊した様子を見て不安になり、卒業後は一般企業に就職。しかし人をサポートする職業への興味が続き、独学で保育士の資格を取得します。

保育士の資格を得るには福祉と教育に関する筆記に加え、幼児が興味をそそるような表現スキルを用いた実技も必要なので一見、難儀かもしれませんが「ハードルは思ったより高くなかった。」そうです。

根性重視の世界に追いつけない

Oさんによると試験内容は数年来、質が格段と下がっているようですが、背景には(保育士の人材確保への困難)があります。

一人あたり、約50求人集まるとされる需要過剰の保育業界へ飛び込んだOさんは、(保育の知識と現場で働く実感との想像を絶するギャップ)に苛まれた、といいます。

「子供って常に予想がつかない行動をするもので・・・・・・大人の理性を超えた、アクシデントにふりまわされて始終目が離せず、とにかく辛かったです」

辛いのは子供の扱いに限りません。多くの職種にもれず、保育業界も新卒組の参入が多いですが、彼らのスパルタで磨き抜かれたペースについていけなかったのです。

「同僚たちは学生時代、体育会の部活で鬼コーチの指導のもと上位の成績を挙げたり、インターハイ出場の功績があったりと、休む間もなくしごかれた人達です。バリバリした異文化の中で、とてもやっていけませんでした。」

薄まる虐待への垣根 燃え尽き症候群にとりつかれ

常時、気が抜けない子供の養育に、根性優先の職場に追われたoさんは、夜毎に幻聴が現れ始めます。いわゆる燃え尽き症候群の前兆で、同僚に相談しましたが軽くあしらわれるのみ。そんな同僚たちも「帰宅したとたん、化粧も着替える体力もなくそのまま突っ伏してしまう」過酷さに耐えきれず、辞めていく人も多かったそうです。

―私には生身の人間の、命を預かる仕事への自覚がなかったのか―

Oさんの症状は、その後も、更に悪化してしまい、就職してから五ヶ月後で挫折することになります。

上記のケースは介護にも共通しているようで、介護経験のあるIさんは「有料老人ホームの一部以外は、業務上スピードが、第一に優先されます。色んなことを目まぐるしくこなすのに耐えられないし、施設の利用者さんとお話しするにも、各フロアごとの関係調整で手いっぱいなんです。」

「“足りないを気合いで補う”風潮が社会全体でありますよね。あきらかに効率が悪いのに、耐えきった限られた人しか生き残れない。」(Mさん)

皆さんの多くが福祉の実務について、(精神論が先行する忙しさ)に追われているといいます。

人材不足で切り詰められる現場に、自治体も福祉職希望者の育成に尽力しているといいますが、「保育などは人件費が安いから、”削り合い”をしているんです。どうせ辞める人が多いんだし、適当にパートやアルバイトで数を埋めていく施策だから、根本的な解決にならない。」(Iさん・Oさん)

福祉を必要とする人の多様な要求に応えるには、スタッフの負担の軽減が必要ですが、その為には人を補充するだけに限らず、労働効率も考慮した”患者に対応できるゆとり”が大きな論点だそうです。

~”排他性”がなくならない限り、福祉は壮絶でありつづける~

体育会系だけが生き残れる、マルチタスクでスピード重視の現場。例外も少なからずあるかもしれませんが、現代特有のブラックな職場環境の一端をうかがいしれたと思います。

切り詰められる職員への解決策の糸口に、「一人ずつ個別に振り分ける、仕事の分散」や「教育やスポーツなどの他業種との連携」などの提案がありました。ただ、これらの取り組みだけでは本質的な解決には向かいません。

閉鎖的な施設によくある管理主義や、同情をよそおう職員の傲慢と、世間の”福祉は遠い世界という意識・・・・・・。なにより助けを必要とする人への排他性がなくならない限り、福祉業界の根本的な課題は解消しえないでしょう。

”誰にでも必要なものである”という福祉の大衆化とそれにたいするリテラシーの充実こそ、これからは重要かもしれません。

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