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本当に豊かな暮らしって何だろう 映像作品『人生フルーツ』を見て

みなさんは、日々忙しく働いていたり、周りにモノや情報が溢れていたりすると、急に疲れを感じる瞬間がないでしょうか。『人生フルーツ』は、自分の今の暮らしぶりに疑問を感じた時にぜひ見ていただきたい作品です。

自分たちで何でも手作りし、丁寧な生活を続ける老夫婦を映し出したこの作品は、「本当に豊かな暮らしって何だろう」と、私達を小休止させてくれます。

人生フルーツとは http://life-is-fruity.com/about/

名古屋近郊の高蔵寺ニュータウンの一隅で、雑木林に囲まれ自給自足に近い生活を営む建築家の津端修一氏と妻の英子さんの日常を追ったドキュメンタリー。阿佐ヶ谷住宅をはじめさまざまな団地などの都市計画に携わってきた津端氏が自ら手掛けたニュータウンに居を構え、時を重ねてきた二人の暮らしを通し、日本が失った本当の豊かさを探る。ナレーションを女優の樹木希林が務める。

●「家は、暮らしの宝石箱でなくてはいけない」

この物語の主人公は、建築家の津端修一さん(90)と、その妻英子さん(87)。愛知県春日井市の高蔵寺ニュータウンにある一軒家に2人で暮らしています。

雑木林に囲まれたその家の庭には、70種の野菜と50種の果実が育ち、木々と作物が季節の到来を伝えます。

「コツコツ手作りしていけば、何か見えてくるものがある」という修一さんのモットーの下、2人の生活は工夫が凝らされ、実に丁寧です。作中に登場する、「家は、暮らしの宝石箱でなくてはいけない」という言葉のとおり、家の中には、おいしい食事と緑、優しさがたくさん詰まっています。

●量的な生産が優先された時代 修一さんに訪れた転機

実は、かつて、日本住宅公団のエースだった修一さん。数多くの団地の建設、都市計画に携わってきました。

そんな修一さんにとって転機となったのは、2人の家が建つ高蔵寺ニュータウンの建設です。自然を残し、元あった山の存在を身近に感じられるニュータウンを目指した修一さんですが、時代は高度経済成長期…量的な建設が優先され、無機質な団地が立ち並ぶことになります。

修一さんは、この頃よりそれまでの仕事から距離を置き、雑木林の再生プロジェクトや、今の暮らしをスタートさせます。

●2人から感じる「哲学」

『人生フルーツ』は、修一さんと英子さんの日々の生活を、ただただ、坦々と映しています。

私にとって印象的だったのは、修一さんと英子さんが、単なる優しくて、温厚なおじいさんとおばあさんには見えなかったことです。

いくつになっても、2人は、物質的な世の中には批判的ですし、便利さだけが優先されることについても、良しとしません。時々、漏れ伝わる2人のそんな一面に、少し後ろめたい気持ちになった私がいました。

私は、「食べ物に感謝して、緑を愛でて、季節を感じる」…何十年もそうやって暮らしてきた2人の姿を、いわゆる「スローライフ」や「オーガニック」という言葉でまとめてしまうのは、少し乱暴だと思っています。もはや、「哲学」とか「信念」と表現する方が正しいのかもしれません。

●「こんな暮らしもあるのかもな」で少しだけ生きやすくなる

最近では、「丁寧な暮らし」や「地方移住」といったキーワードを耳にすることも増えていますが、生活面や経済面のことを考えると、現実的に難しいという方が大半なのではないかと思います。さらに、「哲学」の域である、修一さんと英子さんのような生活となると、なおさらです。

しかし、『人生フルーツ』の中には私達にも真似できることがたくさんありました。たとえば、食卓に花を飾る、子どものおもちゃを手作りしてみる、季節の花を楽しむ…一見、どうでも良いと思えることに時間と手間をかけられる心の余裕こそが、豊かな暮らしにつながる気がしました。

もちろん、全ての人がそういった生活に向いているわけではありません。

ただ、忙しく暮らしていると「こうじゃなくてはいけない」、「ここで暮らすしかない」と、自分でも知らず知らずのうちに考えが凝り固まってしまうことはないでしょうか?

『人生フルーツ』は、そんな自分自身を見直すきっかけになってくれる作品です。「こんな暮らしもあるかもな」と、視野が広がるだけでも、私達は、少しだけ生きやすくなるのだと思います。

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