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アニマルウェルフェアを学ぶ旅、体験レポート 「仲間、地域で楽しむことがアニマルウェルフェアのきっかけに?」

2017年の2/17(金)〜19(日)の3日間開催されたR-SIC2017。

中日となる2日目はイベント会場を抜け出し、参加者たちが実際に社会問題の現場を訪れるスタディツアーが実施された。食品廃棄、自閉症、人権、防災、動物愛護など様々なテーマに沿った9種類のツアーが用意され、参加者は興味のあるツアーに参加しました。

今回は数あるツアーの中から、「EUではスタンダード?! 循環型農業とアニマルウェルフェアを学ぶツアー」とその裏側をご紹介します。

行くまでに調べていたこと:日本の家畜の状況

ツアーで向かう中、「日本においては、経済効率を優先するため、家畜を高密度に集約する飼育方法を採用する畜産農家が多数を占めています。実は、その飼育過程では家畜に大きなストレスがかかってしまう」というツアーの説明を読んでいました。

気になって、アニマルウェルフェアという概念を調べているうちに、アニマルウェルフェア協会というホームページにたどり着きました。アニマルウェルフェア協会の畜産動物の現状というページを拝見すると、http://animalsjapan.org/chikusan/

「豚、牛、鶏などの畜産動物は犬や猫と同じでそれぞれ個性があり、喜び、悲しみ、痛みなども感じます。彼らは法律で保護されることがなく、ごく一部の放牧を行っている畜産業をのぞき、過酷な環境下で憐れな一生を送ります。」「殺処分」「切断」「監禁」「虐待」などの現状があることを知り、いかに、この分野に対して自分自身が無関心であったかを認識することが出来ました。

そのうえで、今回のツアーでは何を見ることが出来るのだろうと期待を高めていました。

磯沼ミルクファームに到着して見えてくること

私たちが訪れたのは、八王子市にある磯沼ミルクファーム:http://isonuma-farm.com/
アニマルウェルフェア&循環型農業を実践している農場。子牛も含め90頭の乳牛、13頭の羊などを育てています。

入口に到着すると、坂道を下っていく。奥の画面に民家が見えている。民家に隣接していることで、近隣住民への配慮が求められる環境にあります。

坂道を降りると、いきなり牛舎が。ここで気づいたのは臭いがほとんどないこと。むしろコーヒーのいい香りがあたりに漂っていました。
実は、牛舎のベッドにコーヒー工場・チョコレート工場よりとり寄せたカカオ殻・コーヒー皮・豆・粉を毎朝1000kg以上撒いているそうです。

この牛舎にいる牛は、繋がれておらず、自由に動き回っていました。
人が近づくと、牛の方から寄ってきてくれます。

牛が自分でブラッシングをしています。
機械に体を近づけると、自動的に回転してブラッシングが行われます。

餌も自由に食べることが出来ます。コンピューター制御した餌やり機により24時間、一定量の餌を提供できるようにしているそうです。

傾斜を利用した丘のような牧場を、牛たちは自由に散歩をすることができます。

牛には、それぞれ「ハナコ」などの名前が付けられている。呼ぶと反応があります。

磯沼ミルクファームの全体図。コンパクト!

コンパクトな中に、「世界一小さいヨーグルト工房」「牧場熔岩石窯」などがあり、磯沼ミルクファームで作ったヨーグルトを購入出来たり、ピザ・パン・プリン・タンドールチキン・焼き芋などを作る体験が出来ます。

乳製品の中で特長的なのは、一頭の牛からとれたお乳だけを使ったヨーグルト。(通常は、様々な牛のお乳を混合してヨーグルトを作ります。)商品には、牛の名前が書いてあり、牛舎にいるどの牛の乳が使われているのかわかります。商品を購入された方の中には、実際に牛に会いに来る方もいらっしゃるそうです。

乳搾り体験や子牛の散歩など、様々な体験メニューも用意されており、子どもから大人まで楽しめます。

磯沼ミルクファームを30分程かけて、ぐるっと見てみることで、日本の一般的な過酷な畜産の状況と違う点がたくさん見えてきました。

牧場オーナー・磯沼さんに聞いてみる。なぜこのような農場になっていったのか?

ここで牧場オーナーの磯沼さんにお話を伺いました。

まず、望ましいアニマルウェルフェアの条件の共有から。

1.飢えと渇きからの自由(きれいな水と十分な栄養が与えられているか、など)

 

2.肉体的苦痛、不快からの自由(清潔な場所で飼育されているか、など)

 

3.外傷や疾病からの自由(きちんと治療されているか)

 

4.精神的ストレスからの自由

 

5.正常な行動の自由(十分な広さが与えられているか、など)

磯沼さんも、かつては、牛を牛乳の生産道具として捉え、牛乳を最大化する為の従来の日本の飼育方法を採用していたそうです。しかし、26歳でオーストラリアを訪れた際、上記のアニマルウェルフェアの考え方を学んで以来、自分の牧場で少しずつ実践を積み重ねてきたのだそうです。

例えば、

・地下50mから汲み上げられた天然水を、沖縄産化石サンゴのフィルターで濾過。海のミネラルたっぷりでまろやかになった水を飲み水として与える。

 

・餌もこだわっていて、自家牧草地で出来るフレッシュな牧草や都市近郊の食品工場から牛が好物な飼料を購入して提供。

 

・それぞれの牛を認識できるコンピュータにより、24時間、各牛ごとに最適な量の餌を提供

 

・清潔好きな牛の為に、コーヒー工場・チョコレート工場よりとり寄せたカカオ殻・コーヒー皮・豆・粉を毎朝1000kg以上撒いている

を行ってきています。

その結果として、

・「(ストレスが減ったことにより)牛の病気が減って健康になったり、濃くて甘みのあるミルクが出るようになった」

 

・「(珈琲の香りがすることも含めて、近隣の方を配慮する施策に繋がった為)地域の方が来てくれるようになった」

 

・「付加価値の高い商品を作ることが出来るようになり、認知・販売の拡大につながった」

 

・「清潔好きの牛の為に使用しているカカオ殻・コーヒー皮・豆・粉が完熟コーヒー牛糞たい肥となりよく効くたい肥として周囲の農家に購入してもらっている。これがツアーのテーマの一つである循環型農業に繋がった。」

という好循環が生まれているという説明を受けました。

 

では、なぜ、磯沼さんは多くの日本の畜産が実践出来ていない、アニマルウェルフェアを自然に実践できたのでしょうか。磯沼さんはそのヒントをお話してくれました。

「オーストラリアの牧場を見ていて、子どもさん達や地域の方々などコミュニティの方々が、牧場を楽しんでいると感じました。それは素敵だと思いました。私は、オーストリアに行くまでは、仕事を一生懸命して、空いた時間にデイキャンプをしてということをしていました。なぜ、自分のところで楽しむことが出来ないのか?牧場を自分で楽しむ、仲間で楽しむという場所にしていきたいなと思いました。」

 

「うちの牧場は街の中という特殊な立地の牧場です。こういったところで長くやるにはどうすべきかを考えた際に、仲間を増やすことかなと思っています。地方であれば、いくらでも規模を大きくすることが出来ますが、うちの場合には、大きくできません。長くやるには、糞尿の処理もきちんとしなければいけません。隣近所に迷惑だと思われたら、続けることが出来ません。牧場の役割として、皆さんの役に立っているということを表現して、喜んでもらいながら、経済的にも成立する。新宿からでも1時間で来れる場所ですし、いろいろな人に関わってもらい、参加してもらうことを増やしていきたいと思います。」

 

牛は僕ら人間に命がけで奉仕してくれる存在だと感じています。彼らの気持ちに応える為にはどうしたらいいのか?牛と人間がともに幸せに生きる関係を作っていきたいと思っています。

戻ってきてチームで考える、磯沼ミルクファームから学べること

牧場から戻って、参加者同士で意見交換をしました。テーマは「磯沼ミルクファームで気づいたことを、いかに広げていくか」。
私たちのグループでは、磯沼さんが大事にしている「牧場を自分で楽しむ、仲間で楽しむ、地域で楽しむ」というところがポイントだと捉えました。アニマルウェルフェアの正統性・必要性を訴えるだけではなく「仲間、地域で楽しむ為には、動物も繋がれている状況ではなく、生き生きとしていなければいけない」ということを伝える方が自然と広がっていくのではないかと。

そして、磯沼ミルクファームの実践している取り組みをベースとしながら、コストや規模を更に抑えることで、様々な都会の空きスペースにも仲間・地域で楽しめる牧場を作ることが出来るのではないか?という仮説を持ちました。
そうすることで、もっと多くの方が、動物と接して、アニマルウェルフェアを考えていく・広げていくことが出来るのではないかと。

アニマルウェルフェア自体を宣伝して広げるのではなく、このような「コミュニティファーム(勝手にグループで命名しました。)」を広げていくことで、自然と人間と動物のいい関係を育んでいくような仕組みが出来るのが理想だと考えました。

スタッフの方がまとめてくれた、畜産をめぐる社会課題の構造図。分かりやすい!議論の土台になりました。

私たちの学び:様々な地域に、コミュニティファームを作ることで、アニマルウェルフェアを考える機会はもっと増やしていけるのではないか

Goodcaseを更に多くの人に伝えることの大切さ

今回のイベントでは、別のテーマでも様々なツアーが開催されていました。最後には、各ツアーの参加者が一同に介して自分たちが得てきた学びを共有します。

私も、グループを代表して、ツアーで学んできたこと・今後展開していくといい仮説を共有しました。状況を知らない相手に説明をすることで、より仮説が精緻になったり、逆に課題が出てきたりします。「どのくらいの規模から出来るのだろう?」「コミュニティファームっていい響きだね」などの感想をやりとりしました。

また、各ツアーの参加者との共有をきっかけに、他のツアーにも参加してもっと社会問題の根幹の構造を深く知っていきたいと感じました。

終わりに

最後に、リディラバの代表の安部さんから、皆さんへのメッセージが。

「ツアーに参加することで、参加者だけでなく、ツアーを受け入れた方も刺激を受けて、変化がある。ツアーは社会課題解決に向けて、参加者&受け入れ側、双方にとって意味がある

 

「少し肩を並べて一緒に共同作業をすることで、参加者同士が仲間になる」


「ツアーで見た現場がその社会課題の全てを表しているわけではなく、あくまで問題の一端である。だから他の現場も積極的に自分の足で見に行って欲しい。」


「社会問題の表層を見るのではなく、その問題がどうして生まれるのかという”構造”について考えて欲しい」


「今日をきっかけにもっと議論を深めて欲しい」

まさに、チームメンバー同士で新しい繋がりが出来ました。実際に、このツアーが終わった後も、違う社会問題の解決をテーマに集まったりしています。そこでは、今回のツアーと違う課題だと思っていたことが、実は、共通の課題で繋がっているということに気づかされています。

おそらく、今回のツアーで知った社会課題や得た仮説が他の社会課題解決の現場にてボディーブローのように効いてくると感じています。ツアーを提供しれくれたリディラバの皆さん、丁寧に説明をして頂いた磯沼ミルクファームさん、ありがとうございました!

このツアーの詳細は下記を参照してください。

リディラバのスタディツアー『Travel The Problem』

https://traveltheproblem.com/

磯沼ミルクファーム

http://isonuma-farm.com/

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