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ネパールの医療をITの力で支える、3人の若者の挑戦!!「ASHAプロジェクト」

写真左から、「ASHAプロジェクト」の共同設立者で全体コーディネーションを担当する任喜史(にん・よしふみ)さん、ネパールのパタン出身で「ASHAプロジェクト」の共同設立者のサッキャ・サンディープさん、「ASHAプロジェクト」でツール開発を担当する土屋祐一郎(つちや・ゆういちろう)さん

ネパールのこと、どれくらい知っていますか?

テレビでもネパールのことは見ないし、ネパールに旅行に行った人も周りにいない。だからネパールのことは全然知らない。そんな方が多いのではないでしょうか?

今回、取材でネパールの医療環境を変えようとアプローチしている3人の若者に出会うことが出来ました。プロジェクト名は、「ASHAプロジェクト」。彼らのチャレンジをインタビューにてお伺いしました。

ネパールってどんな国?

3人の取り組みをご紹介する前に、そもそもネパールがどのような国かご紹介します。

ネパールはインド、中国に接する小さな内陸の国です。

国土面積は本州を除いた日本(北海道+九州+四国)にほぼ等しく、亜熱帯のジャングルから世界の屋根ヒマラヤまで変化に富んだ国土が特徴的です。

人々の月収は平均Rs1~2万程度(日本円で1~2万円)。1日2ドル未満で暮らす貧困層は2200万人と推定されており、これは国民の70%を超えています。

ネパールの発電量のほぼ全てを水力発電が占めていますが、発電量は不足しており日常的に停電が起きます。

人口は約2780万人。民族は30以上にものぼります。住んでいる場所は様々、分散しています。

交通網は発達しているとはいえず、国土の移動にはバスや車を利用します。田舎では道路の整備が出来ていない所も多くあり、四駆で移動しなければならないほどです。

ネパールの山岳地帯を移動する様子

 

ネパールの医療の現状:いかに分散している人々に医療を届けるか?

ネパールの医療は、いかに分散している地域の人々に医療を届けるか?が重要になります。

都会では、CTがあるなど、先進的な医療が整っていますが、カトマンズ(首都)から30分以上離れると、医療にアクセスがしづらくなります。ネパールの地方部は医療施設が整っていない上に、深刻な医師、看護師不足が発生しています。

また、特に山間部では、道路などのインフラが整備されていないため、病院まで行くのに何時間も歩いていく必要がある、もしくは、そもそも行けないというところがほとんどです。

その為、ネパールの地方医療は、移動式訪問診療がメインになります。

また、上述のように、「インフラが整備されていない」「様々な地域に人々が住んでいる」という事情も手伝って、移動式訪問診療も、頻繁には行えず、場合によっては、1年に1回あるかないかになっており、継続性に問題があります。

 

ある移動式訪問診療の様子。継続的に実施されないため、多くの人が医療を求める結果、長蛇の列が出来ています。

 

震災をきっかけにサッキャさん・任さんが気づいたこと。
「ある薬はやたら余るのにある薬は足らない。」

2015年4月に起きた大地震はマグニチュード7.8、死者は9,000人に及びました。震災後、ネパールには多くの医療支援団が入りました。サッキャさんも任さんと震災後ネパールに入り、医療活動に従事されていました。

その時のことをこう話します。

「地方に医療訪問診療をしたときのこと。ある薬はやたら余るのにある薬は足らない。もっと良くできるのではないかと思いました。診察したカルテを全部エクセルに落としてみて分析をしてみると、色々なことがわかりました。例えば、腰を悪くしている人が多い。山で重い荷物を背負う方が多いことが要因だと思われます。事前に知っていたら、痛み止めをもっと持ってくることが出来たのに。

また、患者さんの中には、我々が専門外で診察しきれない患者さんがいました。白内障の患者さんだったのですが、これから専門医が来ることは期待できない(私たちがその村に来訪した4年振りの医者でした)、繋ぐ人もいない。繋ぐ為に、ここに、こういう人がいますよという情報を伝える必要もありました。

医療データが把握出来たら、こういったことも防げるのにと愕然としました。」(サッキャさん)

そのような思いを抱きながら、首都カトマンズに戻ると診療を受けた多くの患者さんの支援記録やカルテが残されていました。多くは紙ベースで、どれが誰を支援したものなのかも判別がつきづらい。

残された山積みの支援記録。

一度きりの訪問診察のため、患者さんが診察に来ても、その人が以前どんな病気をしたのか、薬は何を出したのかも全く分かりません。医療のIT化も進んでいないのでカルテは紙に手書きです。そしてカルテは患者さんが持ち帰るため医療データが医師の手元にほとんど残らないのです。

そのため、医師同士の情報の共有や患者さんの経過の観察、地域の医療ニーズの把握など医療にとって必要な大切なことがまったくできていなかったのです。

「現場を直接知っていることは、作る側としてもモチベーションが上がります。」

 

インタビューにて、プロジェクトの様子を振り返る3人

この状況にストップをかけたい!

そんな想いで医療情報をデータベース化できるツールを作ろうと決心しエンジニアの土屋さんにも声をかけ、開発したのが医療データベース管理ツールASHA fusion。

タブレットやスマートフォン、PCを利用し、患者さんの医療情報をデータベース上で管理できる画期的なツールを開発しました。

医師や看護師など診療に関わる全てのスタッフがASHA fusionを使うことで患者さんの情報を瞬時に共有できます。(受付で登録した名前や住所、待ち時間に看護師が集めた情報など)診察の待ち時間に看護師が血圧を測って入力しておけば、医師のPCですぐにそれを見ながら診察を始められます。医師が診断、処方を入力すれば薬剤師はすぐにその薬を準備できます。

ネパールではインフラが未だ整わず、日常的に停電が起こりますが、このツールならどこでも使え、低コストです。

それに、医師・看護師から医療ボランティアの方々まで幅広く利用できます。医師に必要な情報量も表示しつつ、ボランティアの方々にとっても使いやすいことを重視しました。現地の病院でコンピュータがあるところならそれにインストールし、ないところには貸し出すようにしました。

制作した土屋さんはこう振り返ります。

「私は、生粋のエンジニア。ツールを作れるというのがまず楽しかったです。その上、それが誰かに喜んでもらえるというのは嬉しいこと。

今回のプロジェクトで特殊だったのは、自分自身がネパールに行って、試しに作ったソフトを実際に見てもらい、直接コメントを貰いながら改善したこと。ネパールで提携している病院特有のオペレーションがあることがわかり、そのオペレーションに合わせたフォームをその日のうちに作成したら喜ばれました。

やはり現場を見ているのは早いです。使っている状況がイメージできるので。ソフトウェアは割と細かい使い方が気になるし、そこが重要だと思っています。想像が出来て作れるし、間違っていたらしっかりフィードバックが来る。作る側としてもモチベーションが上がります。」(土屋さん)

彼らのソフトウェアにしていく為に、いかに手間を減らすか

 

ASHA fusionを活用している様子

 

今年の3月にはネパール チトワンにてASHA Fusionを使用し1日で170人の患者さんの訪問診察を行いました。現地の医師、看護師の方にパソコンやタブレットで記録してもらいました。

すると、今まで分からなかった、その地域で多い病気や、診察にあたった4名の医師がどんな薬を処方したかが夕食のときにはすでに分かっていたのです。

その後、より詳しい分析を行い、この村は肥満の方、高血圧の方が多いことが分かりました。これには医師から、「出てきた統計データから地域特有の症状が分かって良かった」とコメントいただき、看護師からはとても使いやすいとの声を頂きました。

しかし、まだネパールの人たちが自分たちでこのツールを使い続けられる段階ではありません。

「お医者さんって、一般に、日々の診療の一連の流れを変化させることに消極的な方が多い。その為、正確さよりも面倒くさがらないものにする必要があります。例えば、手書きで入力しているものをワンタッチにするなどの細かい改善が必要です。

日本の場合は、診療報酬の請求システムの電子化を国主導で進めるなど、制度として変えようとしたので、使う側の意思は関係なく変わった、ネパールでは、制度変更がある訳ではないので、+のインセンティブをつけるようにする努力をしています。

現段階では、実は、医者以外のスタッフが協力的なんです。彼らは、義務でマンスリーレポートを出さないといけないのですが、それがこのシステムを使うと簡略化されることが好評なんです。スタッフにはメリットが見えやすいですが、医者にもメリットをきちんと見せていくことが必要だと感じています。その為、現場の医者にも積極的に使ってもらえるような工夫があと一声必要だと感じています。」(任さん)

任さんの言葉の通り、使いやすさ、必要性、これらを現地の人たちに理解してもらい、使用してもらい、ともに改良していく必要があります。そうしなければ、だだ、『日本から持って行ったツール』で終わってしまいます。

「ASHA fusionで集めた情報が長い目で見てその地方に住む人たちの笑顔に繋がる。それが私たちの目指すところ。だから『彼らのソフトウェアにしていく必要がある』」

任さんはそう言います。

「ASHA fusionが現地の人にとって使いやすく馴染みのあるものになればネパールの限られた医療資源を最大限に生かす事ができ、医療の質の向上に貢献することができる。」

そう願って3人は今日も挑戦を続けます。

インタビューを終えて、談笑する3人。

2018年4月1日に、ASHAプロジェクトの3人をゲストにお招きして、イベントを開催します!是非、ご参加を検討頂ければ幸いです!

【4/1開催】ソーシャルスタンド #7 「IT×国際協力 〜エンジニアの視点から」&NPO法人 ASHA設立記念イベント

ASHAプロジェクト

■特定非営利活動法人 ASHA 概要
ASHAは、途上国で地方医療の情報化を支援することで、限られた資源で効率的な医療の提供を可能にして、人々の”Basic Health Rights”(当たり前の医療を当たり前に受ける権利)の実現を目指すNPOです。

ネパールと日本で活動しており、日本のシステムをただ持って行くだけではなく、”現地の人が自分たちのために自分たちで使えるシステム”を目指して、ネパール・日本・その他様々な国籍のメンバーが協力して様々な活動を進めています。

メンバーの専門性も多彩で、医療系(医学、公衆衛生学など)・情報工学系・公共政策系など、様々な背景を持つメンバーが専門性を活かして、途上国における地方医療の効率化のためのソリューションを開発、導入支援をしていきます。

現在は、ネパールの地方医療機関2箇所と共働でプロジェクトが進行中の他、ネパール政府と協力し、政府が導入を進める新たな健康保険とうまく融合させられるようなシステムの開発について、協議を進めています。

■ホームページ・連絡先
ウェブサイト: http://asha-np.org/
連絡先:
https://goo.gl/forms/fcGNjFqMZRAebyW13 (フォーム)
– asha-nepal@googlegroups.com (メール)

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