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想像力が膨らむ「リーン・ヴォートラン」の作品 〜自分だけの「個」を見つける方法〜

髪型を変えたとき、新しい洋服を卸したとき、そして、アクセサリーをつけたとき。私たちはちょっとしたことで気分を変えられたり、新しい自分に出会えたりできます。

そんな気分を変えられるものの一つであるアクセサリージュエリーデザイナー、リーン・ヴォートランをご存知でしょうか?

おそらく、耳にしたことがない方が多いはずです。リーン・ヴォートランは、マドンナやヴィクトリア・ベッカムもコレクターとして知られている、海外では著名なデザイナーなのですが、日本ではまだほとんど知られていません。作品数も少ないです。

そんなリーン・ヴォートランのコレクターが、イタリアの伝統工芸品ムラーノガラスやヴィンテージ・コスチュームジュエリーを中心とする、ジュエリー&ライフスタイルのショップブランド「chisa」のクリエイティブディレクターをつとめる小瀧千佐子さん。

小瀧さんにリーン・ヴォートランの作品の魅力について、たっぷりうかがいました。

お話しをお伺いした小瀧千佐子さん

戦後、女性のための「コスチューム・ジュエリー」が誕生

小瀧さんの今の仕事の前身であるショップ「サンマルコ」は日本で初めてのムラーノガラス(ヴェネチアンガラス)の専門店。小瀧さんがガラスの魅力に取りつかれたのは幼い頃。薬瓶や香水瓶、櫛など、安価なものから高価なものまで、透けて見えるガラスの美しさにうっとりとしていたそう。

大人になって実家に帰った時ムラーノガラスを見つけ、『なんであるの?』と親に聞いたら『だってあなたが買わせたじゃない』と言われました。覚えていないのですが、子供の時連れられた高島屋で私がねだったそうです。それくらい、小さな頃からガラス自体が大好きでした」

小瀧さんがコスチュームジュエリーを収集し始めたのが今から40年ほど前。リーン・ヴォートランの作品もコスチュームジュエリーの一つ。まずは、コスチュームジュエリーについて教えてもらいました。

1920年〜1945年頃、ちょうど第一次世界大戦・第二次世界大戦が終わって、兵士を始めとする多くの男性犠牲者が出た時期、自身の手で働き、お金を稼ぐ女性が増えました。そんな中、ポール・ポワレというデザイナーが『コルセットから女性を開放する』というある種女性運動とも言えるような当時としては斬新なドレスを発表します。

 

『コスチュームジュエリー』は、まさにそんな時期に生まれました。

 

それまで貴族の女性などはドレスに合わせて宝石などの高価な装飾品を身に着けていました。一見華やかに見えますが、『こんなに高級な服と宝石を身に着けている女性を連れているんだぞ』という、男性の権威をひけらかす道具として女性が使われていたんです。そこに女性の意思はありません。

 

 ポール・ポワレやココ・シャネルはそんな支配から女性を開放しようと、それまでは男性のための生地だったジャージーやツイードを、女性のためのドレスに作り変えたんです。コスチュームジュエリーが生まれた背景には、女性たちが自分の意思を持つため、動きやすい服を作った歴史があります」

 新しい服に合わせるジュエリーには金やダイヤモンド、エメラルドといった宝石は、必ずしも必要ありませんでした。コスチュームジュエリーは素材にこだわらないデザイン重視で、個性を引き出せるジュエリー。小瀧さんはそれを「素材の開放」とも語ります。

chisaでは、様々なコスチュームジュエリーが展示、販売されています。

メッセージ性がはっきりしないからこその魅力

 大学卒業後、エールフランス航空に就職した小瀧さん。先輩たちの美意識にカルチャーショックを受けつつ、休日は世界のアンティークマーケットでガラスやジュエリーを眺める日々を送っていたところ、コスチュームジュエリー、そしてリーン・ヴォートランの作品に出会います。

「初めて買ったのはマーガレットのような小さなブローチ。すごくシンプルなのに、細かなところまで作りがきちんとしているんです。厚みもあり、ずっしりしている。今まで買っていたジュエリーとメッセージ性が違うなと感じました。リーン・ヴォートランの作品は、同じ型でもちょっとエナメルを入れてみたり、別の細工が施してあったりと、一つとして同じものがないんです」

リーン・ヴォートランの作品をご紹介頂きながら、魅力をお伝え頂きました。

 また、リーン・ヴォートランの作品ははっきりと何かを提案しているところがないことが魅力だと小瀧さん。メッセージ性のあるものの方が、インパクトがありそうですが、どういうことなのでしょうか。

「すごくポエティックなんです。人によって見方がまったく異なる、想像を膨らませられる作品ばかり。例えば、『白雪姫と七人の小人』モチーフに見えるブローチがありますが、小人の顔が6つしかない。どこかに隠れているのかな? とか、間に合わなかったのかな、あるいは遊びに行ってしまったのかな? と、いろいろストーリーを考えさせられる面白さがあります。聖書の言葉が刻まれているものもありますが、宗教色がしないのも不思議なんです。ヨナの章節だなと分かりはしますが、それをモチーフにして楽しんでいる感じが伝わってきます。だから、彼女の作品と一緒にいるとワクワクして、時には詩が書けちゃいそうな感覚に陥ります」

失敗を重ねると自分の「個」が見えてくる

 こんなに魅力の詰まったリーン・ヴォートランのジュエリーですが、日本で知られていないのは「協調性を重視する国民性から来ているのかもしれない」と小瀧さん。

「日本人はデパートなどで売っているブランド物を、みんな一斉に買いますよね。もちろん、ブランド物は質が良く、すばらしいです。でも、日本人は個性というものをあまり知らずに育ってきています。私がエールフランスに入社して驚いたのは、客室乗務員一人ひとり、コスメの色が違い、個を重視していること。

 

入社してすぐにメイクアップアーティストがじっと、肌と髪、瞳の色を見てコスメを選んでくれます。私は抹茶色とグレーのアイシャドウを渡されました。一方、JALに入った同級生に聞くと、口紅の色はピンクかオレンジと決まっていたそうです。

 

 接客業ですから、エールフランスでも『お客様より目立ってはいけない』というルールはありました。でも、その規範の中で、どうすればより自分の個性を出せるか、どれだけ自分が美しく見えるかを、エールフランスの客室乗務員たちは日々意識していました。学生の頃の私は、そこそこ楽しく、成績もよく、それなりのところに就職できればいいなと、ぼうっと生きていたところがあったので、個性を追求している彼女たちの姿がカルチャーショックでした。でも、そうやって『個』を大切にする価値観を学べたので、リーン・ヴォートランに惹かれたのかもしれません」

 自由にしていいと言われた際、どうすればいいか分からず、結局周りに合わせてしまう人もいます。どうすれば自分なりの「個」を見つけられるのでしょう。

「自分を知ることです。でも、自分を知るためにはたくさん失敗もしなくてはいけません。失敗を重ねると自分の個が見えてきます。よく、リーン・ヴォートランのような、他とは違う個性的なジュエリーをつけるのは怖いという方がいます。でも、そんな何十万円もするものではなく、数千円や数万円のものです。それくらいの額ならば、今までのイメージを壊して変えてみたらいいじゃない。一歩を踏み出してみましょうと、私はアドバイスしています」

 丁寧に作り込まれ、ミステリアスな面もあり、そして遊び心も忘れない、リーン・ヴォートランのジュエリー。身につけてみると、自分をアップデートしてくれるきっかけになりそうです。

chisaでは、11月25日からリーン・ヴォートラン展を開催しています。是非、日本ではあまり触れることが出来なかったリーン・ヴォートランの作品の魅力を感じてみませんか?

 

 

展覧会タイトル:リーン・ヴォートラン展

英文タイトル:LINE VAUTRIN

会期:2018年11月25日(日)~12月23日(日・祝)

休館日:毎週 月・火 及び12月16日(日)

開場時間:11:00~19:00(最終日17:00まで)

入場料:無料

chisa HP:http://chisa.jp/

主催:chisa、小瀧千佐子

協力:有限会社ヴィヴァーチェ、Deanna Farneti Cera(Milan)、William Wain(London)

 

関連企画:◎本展監修者 小瀧千佐子によるギャラリートーク

12/19(水)14:00~

講師:小瀧千佐子(コスチュームジュエリーコレクター、本展監修者)

会場:chisa

予約、参加費: 不要

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